砂と鉄

よく分からない備忘録たち

『失眠 ザ・スリープ・カース』の感想と考察

『失眠 ザ・スリープ・カース』の感想と考察です。


《注意》
個人的な印象及び、曖昧な記憶などが含まれます。
・『失眠 ザ・スリープ・カース』の内容についての記述を含みます。ネタバレがあります。
・個人の感想のような考察です。(考察という名目の、感情の整理のようなものです。)

以上の点にご理解をいただいた上で、見てください。お願い致します。

 

ある時期からなぜか急にアクセスが増えており怖いため、もしよければどこから参照したのか、なぜこの記事を見ているのか連絡いただけると幸いです。(映画の感想やおすすめのホラー映画なども送っていただけるとありがたいです。)

wavebox.me

 

 ※個人サイトに載せていたものと同じ内容です。

 

 


『失眠』には、ホラー映画らしい描写がありました。
個人的には好きなのですが、苦手な方は以下からそうしたことに触れますのでご注意ください。下の(※)に書いておくので、気になる方はドラッグしてご覧ください。
(※血糊・血液、暴力、性的暴行、子どもへの暴力、人体解剖、人体損壊〈切断など〉、食人、性器〈モザイクあり〉描写、内臓描写、などがありました。)

 

 

【感想】

全く前情報を入れずに行ったのですが、最高に楽しめました!
ホラー映画は驚かす、じわじわと恐怖を煽る、不快感、人への恐怖…などさまざまなものがあって好きですが、実は「音などで驚かしてくるもの」が苦手です。
見られるけれど、「音に反応するのは本能だし…そんなことで驚かさないでほしい」と思ってしまい楽しさは少なめです。

それが、『失眠』にはほとんどなく助かりました。音などにびっくりすることが少ないおかげで、映画や怖さに集中できて最高でした。
舞台が1900年代前半(または、戦時中)ということもうまく演出されている気がして、どことなく不穏な画面と雰囲気があって(ホラー映画として)良い意味で安心できずに落ち着かない作品です。
ずっと悪夢が続いているような、現実感が薄い気がするような、そんな感じです。

全体的には王道の展開で予想はできるのですが、王道だからこその楽しさと怖さがあって好きです。
呪いらしい症状を対処できるのかと匂わせながらも、結末を迎えていく流れは後味が悪くホラー映画的には最高の終わりだと感じています。

主人公のアンソニー・ウォンさんは『インファナル・アフェア』『モーターウェイ』を見て、「風格のある上司や、人情味があって頼りがいのある方を演じられている」という印象がありました。
ですが、『失眠』では捉えどころのない主人公とその父の役は、冷静そうな役と煩悶する姿が印象的な役であり、今まで想像していたお姿とは全く異なる一面が見られてすごかったです。
回想では戦争に振り回されながらも足掻く姿に「周りはそんなにひどいことをしなくても…」と感情移入をしていました。主人公は最後まで捉えどころがなく、不気味だなと思いました。
ホラー映画らしくて、最後まで緊張して見られたので大変魅力的で良い役でした。すごいです!

ラム・カートンさんは最初で友情出演?とあったので、そこまで作品には出られないかなと考えていましたが、重要でかなり出番も多いです。
見ていて、「あっ、また悪役の立場」「こういうの『Zの嵐』で見た記憶が…」と思いました。(『貪狼』『Zの嵐』を見た後だったため、その印象が余計に強くなってしまいました。すみません。)察せられた方でこうした描写が苦手な方はご注意ください。
悪役的な立場でひどいこともするのですが、表情を変えずにさらりと行う冷徹な印象が強く、現実的に怖いなと思いました。呪いを掛けられても仕方がないし、むしろ掛けられて因果応報にあってほしいとさえ感じたので良い悪役です。(憎まれることに振りきれている登場人物は感情移入をせずに見やすいためです。悪役が行う行為などを庇う意図はありません。)
個人的には、洋装が体格にぴったりでかっこいいのと、脚が長いと思ったのと、頬を張られる場面と、口元に血が滲んでいる所が最高に素敵だ…と思っていました。いや、かっこいいので仕方ないです。たぶん…

日本語がときどき出ていましたが、日本語の部分に字幕がなくところどころ分からなかったのは少し惜しい気がします。一応日本語が母語のはずなのですが、聞き取りが苦手なので全てに字幕を付けてほしかったです。
それでも、日本語のセリフの部分は丁寧に作られている・演じられていると感じました。(明らかな誤りなどがあったり、何度見ても聞き取れない作品がたまにあります。そういうのは、近年の作品では減ったのかなと思います。)

 

 

 


※以下からは、ホラー映画やグロテスクな描写について触れます。

苦手な方はお気をつけください。

 

 

遺体の解剖、首の切断、血糊、食人など一通りのことをしてくれて、大変満足です。
新鮮そうな内臓も出てくるうえに、性器の切断までやってくれるのは良いですね。見た後に元気が出ます。
個人的には、顔の皮は作中のようには剥がれないとは思いましたが…
(目や口といった部分は外の皮膚と内側の粘膜組織とつながっているので、きれいに剥がれないそうです。そういったつながっている箇所は刃物などで切って剥がすそうです。)
ですが、リアリティよりも見た目の派手さを優先ということで、皮を一息に剥がすのは良いですね。ちょっと引いてしまいながらも、目が離せないホラー映画の醍醐味といった場面です。

呪いによる幻覚も不気味ですし、刃物で容赦なく襲い掛かる父親も怖くて最高でした。撃たれても倒れないあたりが、狂気的で人間離れしてしまった者の怖さがあって良いです。

前情報がなかったために食人の描写があるのかなと見る前は思っていましたが、そこまでしっかりと押さえてくれます。
内臓が出ていたり、皮がちぎれていく描写や肉片を吐き出すところもホラー映画として最高でした。
それでも、そこまでえげつなくはないのでおすすめ(?)です。
…と思ったのですが、微妙ですね。やはり苦手な方はお気を付けください。

 

 

 

 

【考察】

考察するような部分は少なく、素直に作品の展開通りのお話だと思います。

しかし、少し気になる点があったのでその点を考えていきます。
それは、「主人公の呪いはいつからだったのか」ということです。

主人公が呪いに掛かっていたのは明らかです。
(ときおり映る女性に、眠ることができないらしい描写、最後の行動などです。物語の文脈的には、十分呪いに掛かっていることが示されていると感じます。)

しかし、最後に主人公の回想から「墓場に行ったときから、女の人が見える」といったセリフがあります。
ここから、私は「主人公は、いつから呪いに掛かっているのだろう」と疑問に思いました。
他に呪いに掛かった人々の様子から、子どものときではなく大人になった後に呪いの症状が出ていることは分かります。子どもへの呪いや、具体的な症状や呪いの段階などは明確には分かりませんが…
こうした描写から、途中までは「大人の年齢から呪いの症状が出る」と思い込んでいた考えが、変わりました。

そこでふと疑問に思ったのが、「主人公は幼い頃に墓場に行ったときから、眠れていないのではないか」というものです。

こう考えると、作中のことも色々とつながる気がします。

まず、なぜ主人公が「眠らなくても良いという研究に注力したのか」です。
推測ですが、主人公は不眠の呪い(に掛かっている自分)を否定するために、「眠らない」ことを当然のことにしたかったのかなと思いました。
そのため、「研究に倫理観がないのではないか」と問われた際に、眠らない自身を否定された、眠らないことが当然である自らの倫理を否定された(推測でしかありませんが…)といったように感じて怒ったのではないかとも感じます。
そもそも、研究が「眠りを改善」「眠る時間の有効活用」といったものではなく、「眠ることを無駄と判断した上での否定」なので主人公が眠ることを少なくとも好んでいないらしいことが分かります。なぜ、ここまで眠ることを嫌うのかは呪い(による不眠などの症状・異変)を否定したかったと考えれば、少し納得がいく気がします。

さらに、主人公が眠る場面は一切作中でありません。
序盤に眠れていないらしい場面だけで、眠る場面はありません。映画以外の作品でもそうですが、わざわざ日常の食事・入浴・睡眠といったことは描かないので、盲点でした。
これに気が付いたときは、叙述トリックみたいだと一人で勝手に感動していました。
助手からは「出勤が早いですね」と二、三回ほど言われていますが、研究熱心だったのではなく、主人公は眠らないために家に帰らなかった、休む必要がなかったと暗に示しているのかもしれないとも思います。

また、密かに祖母に手をかけたことも呪いの暗示な気がします。
考え過ぎな気もしますが、呪いは「他者を傷つける」といった行動をするようなので「祖母を殺す」時点で呪いには掛かっていたのか、などと想像しています。

〈追記(2019/2/23)〉
作品の序盤の場面で、主人公がベッドで目を開けているところがあります。
そこでの左腕がどうにも主人公のものらしくない(男性の体格にしては細い、手が小さく見える。また、腕の位置が不自然に見えました。)と感じましたが、見たときは「あれ? 見間違いだったかな」と考えていました。
しかし、調べてみたところ、どうにも主人公の腕ではないと思います。
腕の位置と細さなどから、女性のものらしい腕…に見えます。
そのため、主人公は作品の序盤から、あるいは子どものときに墓場に行った頃から、呪いの症状が出ていると考えられるかな、と思いました。
といったことを考え、最後は土地の縁、血筋、祖先の行いなどを含めた呪いから主人公は逃れられず、自身と同じ症状を見せる相手に狂うというか、引っ張られて呪われた自らをさらけ出したのかなとも思いました。


【睡眠について】
昔、噂で聞いたところでは、事故後に眠らなくなった方がいるそうだという話を聞いたことがあります。その方を調べてみると、通常の人の脳波(?)とは異なっていたとか、そうではなかったとか…
脳や睡眠はやはり不思議だと思います。

そういえば、「不眠症で死亡する」という遺伝病があるという話もあります。
調べてみたところ、「致死性家族性不眠症」というそうです。
おおよその特徴としては、
・家族からおよそ50%の確立で遺伝する
・不眠といった症状がある
・発症からおよそ1~2年の数年で死亡に至る
・治療法は確立されていない
というものです。
…映画の不眠症はこれが元と考えられるでしょう。

軽く調べてみると、「クロイツフェルト・ヤコブ病」「クールー病」などと同様に、「異常型プリオン蛋白の蓄積」が原因の病らしいです。
そして、「クールー病」などは文化的に行われていた食人で死者の脳が食べられていたことが原因で発生したのではないか、とのことです。
こういうことから、不眠と食人という要素を組み合わせ、脳の異常による病が遺伝していくのを呪いと絡めて表現したのかなと思いました。

※病に関する知識などはほとんどないので、これらの事柄は素人が軽く調べて知ったことの寄せ集めであることをご理解ください。事実として信じないでください。

 


個人的な考えですが、呪いはこの映画で見られるような理不尽なものだとしみじみ実感しました。
ジョジョの奇妙な冒険』の作者である荒木飛呂彦さんがどこか(第三部の単行本か文庫版のコメントだった?ような気がします。)で「先祖からのつながり」といった敵が怖いと仰られていたと思います。
たしか、「先祖は直接知らないけれどもつながりがあって、先祖のつながりから襲い掛かってくる敵は怖い」といったものでした。先祖のことは自分と関係ないと思っても、敵からすれば因果があって襲い掛かられる方からすれば堪ったものではないと、読んだ当時に確かに怖いと思った記憶があります。
でも、因果はそういったものであるとも思います。
たとえ助けようとしても、善意があったとしても、相手から一方的に恨まれてしまうこともありますし、呪いとは理不尽で、切ろうとも切りがたい縁があるものなのかなと考えてしまいます。
双子のお姉さんは、妹や父、家業から生まれた時代といったものへの根が深い思い(恨み)がありそうですし、辛いなと思ってしまいました。